「小説は大道に沿うて持ち歩かれる鏡のようなものだ」と小説の中で作者が言うように、この中では大革命からナポレオンが失脚して王制が復活して以降(1830年頃まで)のフランス社会が写されている。
その写し鏡に「何を見るか」は基本的に読者に委ねられている。世間の目に束縛されて本心のままに振る舞えず倦怠に支配された上流社会や、それに由来して情熱が歪められた為に頭脳偏重の倒錯した恋愛、地方都市の拝金主義や偽善的な修道会と貴族の関係性などいろいろと興味深いテーマが並んでいるが、その中には日本人にも比較的共感しやすいものが含まれているように思える。
自分の主張をはっきりと述べ、自由、平等 他者への尊重と言った革命を通して獲得した観念を現代の問題に照らして議論を進めていくフランスの姿とは一見接続し難いように思えるものをその中に見出すと、この先どのようにしてフランスは変化していったのだろうかという興味がむくむくと湧いてくる。
野心という大望が、個人に根差し行動せしめると、それが時に他者とぶつかり合って、尊敬や軽蔑、嫉妬や敬愛といった好ましくも卑しくもみえる情念となって弾ける。
苦悩し、我を失うようになっても、それが道しるべとなり、たとえ貧しい民衆の中に生まれても階級の壁を破り前へ前へと駆り立てる、率直なエネルギーの輝きを見ることができるのではないだろうか。
そういった民衆のエネルギーが、この国の自由で、困難を乗り越えて新しいものを生み出す力の源泉となっているのかもしれない。
民衆の変遷を今後さらに追っていきたい。