「累」の作者松浦だるま氏による累の母親・誘(いざな)の物語
まずプロ並に文章が上手くてびっくり。描写も秀逸で豊饒な世界観に引き込まれます。「累」はヒロインの成長を兼ねた演劇ものの側面が強いですが、「誘」は純粋な和風伝奇ホラー。因習に縛られた山奥の過疎村、醜さ故に迫害され隠蔽され育てられた子供、曲解され捏造された伝承の裏に隠された哀しい伝説と道具立てが揃ってます。
誘と欽吾の出会いなど、本編に繋がる重要なエピソードも盛り込まれているのでファン必読。ただ、誘の母親にまつわる謎は欽吾の回想の形を借りて本編に組み込まれると思っていたので、小説という媒体で発表されたのには意表を突かれました。
呪いの口紅の謂れや民俗学的考証など、本編では掘り下げられないミステリー部分に理由付けがされて、痒い所に手が届く感があります。
ですが「累の母親に躊躇はなかった。醜さ故に味わった悲惨さが累の比はなかったからだ」という原作の欽吾の見解にはちょっと疑問を感じました。
命を脅かされる事こそありませんでしたが唯一の肉親の叔母に虐げられ周囲の陰惨な虐めに耐え続けた累と、命を狙われてこそいたが、育ての親の無条件かつ献身的な愛情に包まれ成長した誘。はたしてどちらが幸せな幼少期を過ごしたのか…容姿に偏見を持たぬ得難い理解者と家庭のぬくもりを得られた後者の方が、個人的にはずっと救いがあると思います。それだけに千草がおかれた板挟みの環境が辛いですが……

















