ほろ苦いテストの青春ミステリーとして出色。
深い心の傷を抱えた孤独な少年の成長と葛藤を描いた青春小説としても優れているし、互いが互いの欠落を補い合う引力の強いボーイミーツガールものとしてもお勧めできる。
だがなんといっても絵を描くもの、創作に携わるものに読んでもらいたい。
主人公の特技が錠破りなのでそこがクローズアップされがちだが、ヒロインと交流する手段や、本書の重要な場面にマイクのもう一つの特技の絵が登場する。
特に終盤、ヒロインと空き家に忍び込んで壁に交互に絵を描き合うシーンのイノセンスな美しさときたら!
絵を描くという言葉を用いぬ営みがどのようにして孤独なふたりを繋ぎその心を癒してきたか、静かな感動がこみあげて胸に迫る。
言葉にするには刺々しすぎ生々しすぎる、その行為は傷口を抉るような痛みを伴う。だから告白の代償として二人は漫画の交換を選択した。
どんな辛い記憶や酷い体験も、絵にすれば濾過されて、諦観で慰撫されて伝えることができたから。
フィクションに救われた経験があるものは感情移入せざるをえない。
マイクの特技であり本書の重要なターニングポイントとなる「錠前破り」が「閉じたものを開く」行為なら、絵は「閉ざされたものを表現する」行為であり、二つの対比が過去から未来へ響き合うことで切ない余韻をもたらしている。

















