宮部みゆきさんの「ぼんくら」三部作の第一作目です。
なんということのない江戸の長屋が舞台になっています。
なんの変哲もない長屋ですが、人殺しが起こります。
普通の長屋と違うところは、長屋の責任者である差配人が責任を感じて行方をくらましてしまうところ、後任がとんでもなく若造で、重みのかけらもないところです。
一方、店子たちがそれぞれの事情で、長屋を出ていってしまいます。
どの短編も深刻な事情が絡むのですが、そこに町廻り同心の視線がはいると、なぜだか笑いに変わります。
深刻な問題から目をそらすわけではないのです。
同心も真剣なのです。しかし、事件の語り口が独特です。
マクラからはじまり、小ネタを挟みながら本題に入る。
語りの最中にも不意にあらわれるクスグリ。
これはもう小説というより落語です。
笑いで語るお江戸の人情噺です。
そして長屋の住人たちは、そろいもそろって個性が強い。
"愚痴っぽい魚屋など、怒りっぽい米屋と同じくらい始末に困る代物である"
"長屋ってのはそういうところがあってよ、憎まれ役がひとり居たほうが、ほかはうまくいくんだな"
トラブルにツッコミを入れながら、同心は長屋の建て直しに奔走します。
それでも店子は逃げていく。
そうこうするうちに12歳くらいの岡っ引き手伝いや、同心の甥っ子も登場し、話に新風が吹きはじめます。
「ぼんくら」は宮部みゆきさんの時代物で、手に取りやすい巻のひとつです。
落語や人情噺が好きな方、時代小説を軽く読みたい方、なんだか息が抜きたい方にいかがでしょうか。