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窪美澄の『夜に星を放つ』は、第167回直木賞を受賞した短編集で、5つの物語が収められています。それぞれの作品に共通するテーマは、「喪失」そして「再生」。登場人物たちは、大切な人との別れや孤独を経験しながらも、静かに自分自身と向き合い、少しずつ前に進んでいきます。
特に印象的だったのは『真夜中のアボカド』。双子の妹を亡くした主人公・綾が、アボカドの種を育てるという小さな行為を通して、妹の不在と向き合い、自分の人生を取り戻していく姿が描かれます。母親の「綾は綾の人生を生きなさい」という言葉が、心に深く残りました。それは、過去の痛みから自分を解放する許しの言葉でもありました。
他の作品でも、幽霊となった母親と暮らす少女や、離婚後に再婚した父との関係に悩む少年など、繊細な心の揺れが丁寧に描かれています。どの物語も、派手な展開はありませんが、登場人物の沈黙や空気感がじんわりと伝わってきて、読者自身の記憶や感情に触れてくるような感覚を覚えます。
この作品を読んで感じたのは、人の気持ちは一種類ではなく、複雑で多層的であるということ。悲しみの中にも優しさがあり、別れの中にもつながりがある。『夜に星を放つ』は、そんな人間の感情の深さを静かに教えてくれる一冊です。













