「夜明けのすべて」
この作品には、PMS(月経前症候群)を患っており、月に一度感情の爆発を抑えられなくなってしまう藤沢さんと、パニック障害を患い、生きがいも気力も失った山添くん、という人物が登場している。
藤沢さんと山添くんは栗田金属という小さい会社で働いているただの同僚。
だが、お互いに病気を患っているということがわかり、友達や恋人でもなく「同士」のような気持ちが芽生え、助け合っていく、という物語だ。
作品の序盤から終盤まで、特に大きな出来事は無い。
ただの平凡な日々がほんの少しずつ進んでいる、とそのくらいの感覚だが、少しずつしか進めなくともそれでいいんだ、と思わせてくれるような、読み終えた時には心が軽くなっているような、そんな作品だ。
私自身、小説のノベルティにある「知ってる?夜明けの直前が、一番暗いって」という言葉に本編を読む前からかなり惹かれていたのだが、個人的にこの「夜明け」という言葉はメンタル的に一番参っている状態だと解釈した。
夜は嫌でもいろいろ考えてしまうから。
早く夜が明けないかな、なんて思っていると朝になり、自然と気分が晴れる。
夜が明けて気分が晴れる前、夜明けをひたすらに待っている時の「夜」が一番暗い気分になってしまう、落ち込んでしまう。
そんな現代人なら一度は思ったことがあるであろう想いを「夜明けの直前が、一番暗い」と表した。
この文章を見た瞬間、共感とはこの事を言うのか、というくらい強く共感してしまった。
この言葉が、光に見えた。
本編も読んで、「夜明けのすべて」が夜明けの直前の光になった。
同じ夜でも、1人は夜明けを迎えた朝を待っているかもしれないし、1人は夜のままでいたいと思っているかもしれない。
それでも地球がある限り、私たちが生きている限り、「夜明け」は永遠にある。
それこそが「夜明けのすべて」であろう。
そんなことを考えさせられた、とても素敵なお話だった。
ぜひ読んでみてほしいと思う。
映画公開前に。絶飲時のうがいのように一雫が沁みて染みて少しずつすべてが変わる時がある。明けない夜はない、は朝を迎えた人の結果論だけど、でも確かに自動的に朝は来ない。私も運良く朝を迎えただけなのを思い出した。そう、皆夜を持ってる、朝を待ってる。