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片倉日龍雄『多久家文書にみる「葉隠」の時代』は、『葉隠』が生まれた佐賀藩の多久家に残る史料群を通じて、その思想的・社会的背景を具体的に検証した歴史研究書。山本常朝や田代陣基らが生きた時代の藩政、家臣団の構造、政治的緊張を丹念に読み解き、『葉隠』が単なる精神論ではなく、動乱と秩序維持のはざまで生まれた実践的倫理だったことを明らかにしている。思想と史料が密接に交差する精緻な分析で、「葉隠のリアルな時代像」を鮮明に浮かび上がらせた優れた労作だった。