前作よりも少しだけ光の量が増えた物語だと感じました。相変わらずクスノキのまわりには痛みや後悔を抱えた人たちが集まってくるのに、どこか今回は、未来に向かって細いけれど道が伸びている気配があります。
詩を書く少女と、記憶が続かない少年という組み合わせがとても切なくて、二人が一緒にいる時間の尊さがページの隙間からこぼれてきました。言葉と絵という、形の違う表現がクスノキの力と重なって、人の想いを少しだけ遠くへ運んでくれるところに、じんとしました。
東野圭吾の作品なのに、犯人探しよりも、傷を抱えた人がどうやって自分を許していくかに重心が置かれていて、静かなスピードで読者の心に入り込んできます。赦しは誰かから与えられるご褒美ではなく、自分の中で時間をかけて育てていくものなのだと、穏やかに突きつけられました。
ミステリーらしい派手な謎解きや衝撃展開は控えめですが、その代わりに「赦し」「救い」「人と人とのつながり」といった心の深みに切り込む人間ドラマが丁寧に描かれており、読後には胸がじんわりと温かく、そして切なくなる、そんな余韻が残りました。 
特に、記憶障害を抱える少年や、認知症を患う人物など“不確かさ”を抱えた登場人物たちが、それでも互いに支え合い、「今」を大切に生きようとする姿に、読む者として強く心を揺さぶられました。
『クスノキの番人』に続くシリーズものであることは知らずに読んだが、それでも問題なく楽しめた。それでも随所で、舞台となる神社の「クスノキ」の力や人間関係など、前作があるのだろう、と思いながら読むことになったので、1作目『クスノキの番人』から読めていたら、とは思う。
自身も挫折した経験のある青年、玲斗(れいと)が難病や貧困に苦しむ子どもたちを見守ろうとする微笑ましいストーリー。そしてその玲斗のことも、伯母や刑事が暖かい目で見守っていて、不思議な力を持つ「クスノキ」という設定を受け入れられる読者にとっては、現実といい意味での虚構を楽しめる作品。




















