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この作品は日本の伝統的な怪談の雰囲気を現代に蘇らせた秀逸な怪奇小説集でした。川奈まり子氏の繊細で美しい文体が、恐怖の中にも幻想的な美しさを醸し出しており、読んでいて背筋が寒くなると同時に文学的な満足感も得られます。「隠里」という設定が巧妙で、現実と異界の境界が曖昧になる不気味さが印象的でした。一つ一つの話が短編でありながら深い余韻を残し、古典的な怪談の持つ「語り継がれる恐怖」の本質を現代的に再構築している点が見事です。ホラーとしての恐怖だけでなく、日本の風土や民俗的な背景も感じられ、文化的な奥行きの深さに感心しました。上質な恐怖と美しい文章を両立させた、大人の読者にこそ味わってほしい怪談文学の傑作だと思います。