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「死神の浮力」は2012年初出された伊坂幸太郎氏の傑作長編。ある日、平凡な山野辺家の日常が突如崩壊した。愛娘の菜摘が何者かに殺されたのだ。容疑者に浮上したのは近所に住む青年・本城。しかし、本城は決定的なアリバイにより、無罪判決を得る。暗闇に突き落とされた山野辺夫妻は、本城への復讐を計画する。そんな二人のもとに、人間の死の可否を判定する“死神”の千葉が現れる。千葉は夫妻と共に本城を追いかけていくのだが___。
この小説のポイントは題名にもあるように「浮力」だと感じた。作中で、浮力の働きが人間の死と比喩されている場面が見られた。氷が溶けてもコップの中の水の体積が変わらないように、一人の人間の死は、社会に対して影響をほとんど与えない。しかし、作中で死神たちが言うように、人間は死んだ人間の事を、幽霊や魂として覚えている。「誰かの記憶に溶ける」ことで社会の総体を保っている。物語中では、この「溶けた記憶」が絶望の淵にいる山野辺夫婦の原動力となっていく。
誰にでも訪れる出来事である「死」。この死の背景には、どんな人間模様があったのか。
ある意味で、命の尊さを考えさせられる、教訓的な小説かもしれない。