連作短編集である本作は、「逃亡の夜」から物語が始まります。お腹の子の父親に全財産を持ち逃げされた上に、多額の借金まで背負わされた幸恵が、蛍が飛び交う山で自殺を考えます。そこで偶然、同級生の隆之と再会します。
フィクションとはいえ、次々と人が亡くなったり、殺意を抱いたりするような重い展開が続き、読んでいて苦しくなる部分もありました。それでも、どの物語も最後にはかすかな光が見え、読者に希望を与えてくれるところが、この作品の魅力だと思います。
正道の視点で描かれた物語がないからこそ、彼の抱える苦悩や、すべてを受け入れて生きていかねばならない辛さが、より重く心に響きます。
いい話だったと単純には言い切れない、複雑な読後感です。しかし、だからこそ深く心に残る、町田さんの作品らしい一冊でした。