「学生アリスシリーズ」とは、京都の英都大学にあるサークル「英都大学推理小説研究会(EMC)」の部員である有栖川有栖(アリス)が様々な事件に巻き込まれていく、青春ミステリーシリーズです。
学生アリスシリーズ初の短編集ということで、長編4冊の後に刊行されたものが今作です。
それならシリーズ未読者は読んでも楽しめないのでは? と思われた方、ご安心ください。
今作はアリスがEMCに入部するところから始まるので、長編作品を読んだことがなくても違和感なくこの世界に入り込めます。
短編は時系列で並べられており、夏以降の物語では「あの夏の事件が……」などという文章が入ることもありますが、気にしなくても読める作りになっています。
気になる方は、長編第1作目の『月光ゲーム』をぜひ読んでみてくださいね。
今作の魅力は、なんといってもEMCメンバーたちの空気感だと思います。
アリスがEMCに加入した時の既存メンバーは3人。
エラリー・クイーンの大ファンで、話し上手かつ聞き上手な2回生の望月周平。
ハードボイルドファンで、望月との絶妙な掛け合いが面白い2回生の織田光次郎。
そして物静かで穏やかな雰囲気を纏う本シリーズの探偵役、4回生の江神二郎。
この4人が色々な議論を戦わせながら、ちょっとした謎や事件に関わっていく様子が、とにかく楽しいのです。
ただ、楽しいながらもどこか切ない気持ちもあって、
わいわいやっているところをもっと見られたらいいのに、と思うと読み進めるペースが落ちたものです。
1988年というセピア色がかった時代で、一緒に過ごせるのは大学生という限られた時間だけだとわかっているからこそ、この青春の1ページを切なく感じてしまうのでしょうか。
もっと単純に、長編5冊と短編集2冊でシリーズは終わるとわかっているからこそ、切なく思うのかもしれません。
日常の謎が多めなのでミステリーとしては小粒な感もありますが、
その分ミステリー談義が多いので、ミステリー好きも楽しめると思いますよ。