第三期メグレで特に好きなタイプの、一人の人物の足跡を追いかけ、その人間性を探ることがメインの話でした。
妻の手により家庭内で抑圧されていたルイは、失職後も復職出来ずに金が無くなる中で、倫理の向こう側へ手を出してしまいました。
何十年も抑圧されてきた彼には、家から出るという選択肢は浮かばなく、何とかして妻の目をごまかすという一点しか選択できなかったのでしょう。
この家族のあり方を見て、クリスティーの『春にして君を離れ』のスカダモア家を少し思い出しました。
しかも、トゥーレ家ではルイと娘・モニクの間には特に絆はありませんでした。
不幸なことに、彼は手に入れた新生活に浮かれてしまいました。
真面目に生きて来た彼が、ここにきて人生で一番自由を手に入れてしまったがために、何時までも続けられないという不安はありつつも、後戻りも出来ずにいました。
メグレ班には賭博班と風紀班で経験を積んで異動してきたサントニが加わり、死体を発見した第三区署のヌヴーも捜査に加わります。
自分のやり方を重んじるメグレは、今回はこの2人に好ましくない思いを抱きながらも、自分の流儀で捜査を進めていきます。
因果応報と言うには、あまりにも様々な歯車が嚙み合わなかったために起きた悲劇でした。
『モンマルトルのメグレ』や『メグレと若い女の死』など、一人の人物に拘るタイプのメグレ物は面白いと感じるものが多いのを再認識できた作品でした。