「日本の根幹を支える農業・林業・畜産を描く絆と再生の物語」
などという帯文から堅苦しい内容を想像してたらとんでもない!
中身はエンターテイメントに徹した、ロック魂炸裂のクライムノベル。
離農を考える二十代後半の農夫・林野省の役人の若い女性・牧場の手伝いにくる小学生の視点でそれぞれ語られているのだが、一人称視点の文体が全く違い、引き出しの多さに驚かされる。私は特に「第二次間伐闘争」の女性支点の、ニュートラルでポエティックな文体が好みだった。
キャラクターも立ちまくり!村中から頼りにされる最強の農夫(70目前)をはじめに、後家や古女房にモテまくりの色香匂い立たせる美青年、補聴器の上からヘッドホンを装備するその親友など、畔の区切りにおさまりきらない通称「あぜやぶり」と呼ばれる暴れん坊たちの活躍が痛快極まる。
就農・離農など、田舎の農村が抱える問題を取り上げながら、けっして堅苦しくならずエンターテイメントに落とし込んだ手腕は見事。
「(前略)百姓には百の業がある。その一つめが一揆だ」の演説はかっこよすぎる。
それでいてミステリーというにはささやかな成り代わりの仕掛けも憎い演出。
全編の共通項として「ミスリードによる人違い」が挙げられるのだが、ある人が帰還するエピローグでもそれは健在。餞別を見て初めて気付いた、自分は完全にだまされてしまった……。
登場人物も一部共通しており、「拳銃と農夫」のキャラクターが後の話に思いがけぬ形で登場する演出もスマート。同じ村を舞台にしながら時間が進んでいくので、あの人がまさかこうなるとは!と驚く。西部劇のカウボーイを例に引くまでもなく、農業とハードボイルドは相性がいいのかもしれない。
二話目の林業と共感覚を絡めた発想も面白いし、三話目は悪たれ牧童たちのジュブナイルな青春・成長小説で、皆テイストが違い飽きることなく一気読みできる。一番好きなキャラクターは惣。
惚れたら一直線の血筋を感じさせる、親子の会話に痺れた。

















