この作品には、検事・寺井啓喜、ショッピングモール勤務の桐生夏月、大学生の八重子など、複数の視点人物が登場する。彼らはそれぞれ異なる価値観や秘密を抱えて生きているが、ある事故死をきっかけに、彼らの人生が交差していく。その交差は、社会が掲げる“多様性”の理想とは、あまりにも不都合なものだった。
読んでいて、私は「多様性を認める社会」とは何かを考えた。私たちは「理解できる範囲の違い」だけを“多様性”として受け入れているのではないか。例えば、性的指向やジェンダー、宗教や文化など、ある程度“説明可能”な違いには寛容になれる。でも、説明できない、あるいは“気持ち悪い”と感じてしまうような違いには、無意識に拒絶してしまう。『正欲』は、そんな“見えない線引き”を暴き出す。
特に印象的だったのは、登場人物たちが「自分の欲望は間違っているのか」と葛藤する場面だ。社会の“正しさ”に照らせば、彼らの欲望は異常かもしれない。でも、それは本当に“間違い”なのだろうか。誰にも迷惑をかけず、ただ静かに生きている人が、社会から排除される現実に、私は強い違和感を覚えた。
この作品は、善悪や正誤では割り切れない“人間の複雑さ”を描いている。そして、私たちが「分かる」ことで安心しようとする姿勢に警鐘を鳴らしている。分からないものを排除するのではなく、分からないまま受け入れる勇気。それこそが、本当の“多様性”なのではないか。
うーん…
面白いは面白いんだけど、共感とかはあんまりないかなぁ。登場人物の特殊な欲が理解できないとかじゃあなくて、そもそも欲が薄いからかもしれない。
自分って結構乾いた人間なのかもしれない。どんな人でも、普通に恋愛結婚した夫婦でも、血を分けた親子でもお互いを完全に分かり合うことなんて所詮できないんだし、多様性を尊重するって、理解し合えないことを前提にして、違うとか同じとか何も感じないような状態のことじゃないのかぁと思う。


















