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詐欺をテーマにした3編の連作短編集です。
第一話と第三話は、最初は決して騙すつもりはなかったのに、気がつけば詐欺に手を染めていた、という展開の恐ろしさが際立っていました。取り返しがつかなくなっていく様には背筋が凍る思いがしますが、「詐欺は詐欺なのだから、ヤバいと気づいた時点で引き返せよ」と、思わずにはいられませんでした。
特に紡は、熱心なファンを10年も騙し続けて、月会費1,000円を300人から徴収していたのに、特にお咎めなし、という結末には少し納得がいきませんでした。親に生活の面倒を見てもらっているにもかかわらず、感謝もなく反発ばかりで、年の割に幼すぎる印象です。
それに比べると、第二話の大貴は非常に大人でした。そして、多佳子は、心のどこかでずっと「大丈夫だよ」と言ってほしかったのだろう、と切なくなります。
詐欺という行為の根底にある、人間の弱さや孤独を深く描き出した作品でした。