前口上に「有栖川小説の見本市みたいなものだ。」とある通り、本作はノンシリーズものの中短編をまとめたものです。
ファンタジー要素の強いもの、ホラー要素の強いもの、
はたまた2ページという短さの詩のようなものまで、バラエティ豊かです。
それぞれに面白い点はあるのですが、私が特に好きな作品は表題作の中編『こうして誰もいなくなった』です。
このタイトルから察せられるように、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』をオマージュしています。
海賊島と言われる場所へ、謎の大富豪からの招待を受けた男女。
なぜ招かれたのかわからないでいる内に、彼らの抱える過去の罪が全員の前で暴露されてしまいます。
大富豪デンスケが命をもって罪を償うことを求めてくるのと同時に、一人が毒に倒れ…
というあらすじで、『そして誰もいなくなった』の導入と大体同じ形です。
ちなみに私は『そして誰もいなくなった』の内容を細かく覚えていません。
それでも面白く読めたので、全く知識のない状態でも大丈夫だと思います。
デンスケはどこにいて、どうやって手を下しているのか。
次に狙われるのは誰なのか。
中編なので比較的スムーズに話が進み、疑心暗鬼でドロドロという展開もないのですが、
全てが終わった後で謎解きパートがあったりと、本作ならではの部分もあります。
『こうして誰もいなくなった』を含む14編のそれぞれで異なる味わいを、ぜひ堪能してみてくださいね。