学生デビューしたもののヒットに恵まれず崖っぷちの三十路作家とその旧友の編集者コンビが、起死回生の逆転劇に挑む。
これは面白かった!前作は重い話だったが、今回はエンターテイメントに徹した軽快なストーリー運びで爽快感あり。キャラクターも立っていて楽しい!
ひねくれものの皮肉屋で、婚約者に「小説のためなら君の母親とも寝るけどいい?」と豪語する豊隆と、そんな豊隆の才能を一途に信じ続け、陰に日向にサポートする俊太郎。豊隆の先輩や同期の作家、俊太郎の上司も個性的!小説のことなんか何もわかっちゃいない嫌なヤツと見せかけて実は……というある意味王道展開だけど、だがそこがいい。横暴な態度と尊大な厚顔の裏に隠れた、小説への真摯な愛情に打たれてしまった。
出版社のみならずIT会社、女優やマネージャーとも連携し、小説を売り出そうと各自知恵を絞りアイディアを練っていく一体感はとてもいい。「面白い」は快楽で、面白い作品は絶対的に正義だという普遍的な真実を思い知らされる。
ながらく冬が続く出版業界だが、面接に来た青年の、「出版社の面接では面白い人に出会わなかった」にはギクリとする。声高に不満をたれる前に自分はそれに足る人物となりえているか、自問・自省したくなる。
惜しむべくは豊隆の執筆に重点がおかれ、肝心の小説そのものにあまり言及されなかったこと。豊隆が書いてるシーンは何箇所か抜粋されるが、詳細なあらすじや、欲張りというなら作中作として一端を垣間見たかった。これは内山や野々宮にも言える。特に野々宮は初登場からインパクトを与える強烈なキャラクターなのに、その後ほぼ出番がなくフェードアウトしてしまったのが惜しい。豊隆の中学時代の恋人なども、意味深な登場をした割には本筋に絡まなかったので、どうなったのか少し気になる。
俊太郎と悠の微妙な親子関係も微笑ましい。俊太郎と豊隆を支える妻は対照的だが、小説家の妻として、あるいは編集者の妻として、腹をくくった姿に好感が持てた。
次代を担う新人作家が終盤に登場するも、ほぼ名前のみの記述なので、どんな作品を書いたのか知りたくなる。続編があるとしたら悠や次世代の作家の物語になるのだろうか?
プロアマ問わず小説を読むのが好きな人、書くのが好きな人はぜひ読んでほしい。自分は「なんで小説を書いてるの?」と問われた豊隆の回答におもいきり共感してしまった。完結した時の気持ちよさは体験した人にしかわからない……。

















