心の傷と再生を静かに描いた物語で、とても胸に響きました。過去のつらい出来事を背負いながらも、それぞれの人生を懸命に歩む登場人物たちの姿が優しく描かれていて、読んでいると自然と応援したくなります。時間をかけてゆっくりと関係が紡がれていく様子や、心の距離が少しずつ縮まる感じが丁寧で、読み終えた後に深い余韻が残りました。悲しみの中にも希望が見える、温かい物語です。
愛ではない。けれどそばにいたい。
少女誘拐事件の犯人とその被害者。
犯人は大学生19歳、被害者は小学生9歳。
でも、これは外側から見た説明に過ぎなかった。
本人たちにしてみればまったく違った関係性だった。
大学生は、少女しか愛せられない。
少女は、家庭にも学校にも居場所がない。
そんな2人が出逢ってしまい、惹かれ合う。
でも、事件のために引き裂かれてしまう。
15年後再会する。
2人はお互いの必要性を感じることになる。
でも、それは愛情ではない。
そんな2人を考えると何とも言えない気持ちになる。
多様性は口に言うのは簡単だが、理解して実行するのは難しい。
当事者の常識は世間の非常識。世間の常識は自分達の非常識。
小説の中では、多様性以外にも、厳格な教育、DV、性被害、シングルマザーなどを絡めて鋭く描いている。
凪良ゆうという作家の力量に驚かされた。
凪良ゆうの『流浪の月』は、過去の事件によって社会から孤立した少女・更紗と、彼女を静かに支える青年・文の関係を描いた感動作です。傷ついた二人が互いを理解し、少しずつ心を開いていく過程が丁寧に描かれ、切なさと温かさが同時に胸に迫ります。社会の偏見や罪の重さを背景にしながらも、希望や人を思いやる優しさが物語全体に漂い、読み終えた後も余韻が長く残る、心に深く響く小説です。