2025年の本屋大賞が決まった。作品は、阿部暁子の『カフネ』
とても深くて、人間味があって、やさしくて、せつなくて、温かくて、悲しくて、真っすぐな、とても素敵な小説だ。
薫子とせつなという2人の女性の関係を軸にストーリーは進んでいく。薫子は国家公務員で離婚したばかり、せつなは薫子の弟の元恋人で家事代行の仕事をしている。
微妙な関係が続く2人だが、ひょんなことから薫子はせつなの家事代行を手伝うことになる。そこで訪れる家庭では、老老介護、生活に余裕のないシングルマザー、ワンオペ育児で疲れている母親、妻に出て行かれた夫、などなど今の世の中でよく見聞きする事例の家庭が出てくる。
家事代行で、料理を作って、部屋を掃除をすれば、その1日だけでも生活に余裕が生まれる。その後の生活にも未来が見えてくる。おいしい料理や片付いた部屋が、いかに生活に潤いを与えるかよく分かる。
それ以外にも、不妊治療、LGBT、味覚障害、白血病など、現代の悩める問題を取り入れて、人の心を赤裸々に写し出している。悩ましくなってしまうが、正面から描いていて考えさせられる。
自分に対して、人に対して、心の葛藤をこれでもかと描いていて、とても心揺さぶられた。でも、読み終えて温かい気持ちになった。2025年の本屋大賞受賞作は、温かなパワーに満ちあふれている。