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諸星大二郎の『妖怪ハンター 水の巻』は、妖怪ハンターシリーズの中でも特に“水”にまつわる神話・民俗を題材にした作品群で構成されている。稗田礼二郎が登場する話は少なく、代わって少年少女の視点や傍観者的な立場から怪異が語られる構成が印象的だ。
特に心を揺さぶられたのは『うつぼ舟の女』。形代に込められた人間の怨念が海に流され、常世の者たちに喰われるという展開は、穢れと浄化、そして異界との境界をテーマにした民俗的想像力の極みだ。読者は、海の向こうにある“異界”の存在を肌で感じることになる。
また、『淵の女』に登場する河童や、『海より来るもの』に描かれる漂着神など、日本の民間信仰に根ざした怪異が、現代的な恐怖とともに再構築されている。諸星氏の筆致は、学術的な知識と幻想的な演出を融合させ、読者に“読む民俗学”としての体験を提供してくれる。
この巻では、稗田があまり登場せず、論文のような文言で締めくくられる話もある。これは、物語の主役が“怪異そのもの”であることを示しており、人間の視点があくまで通過点であるという構造が、作品の深みを増している。



















