上下巻を通して…彼の著書は(6冊のみ読了)、私自身の考えを整理して深く真摯な言葉にかえて取り出してくれているのでは、とすら感じさせてくれる技が非常に多いです。それはさておき
上巻、主人公の土屋が生前の自分を深く知る人々と再会し、それぞれの視点から語られる「土屋」の姿に直面していく中で印象的なのは、土屋が他者と再会するたびに、自分の中にあった「分人(ディビデュアル)」が少しずつ明らかになっていく描写。
仕事の場では完璧主義者で、家族の前では穏やか、友人とはくだけた関係…複数の顔が、断片的な記憶のピースとして提示され、「本当の自分」など、一つではないことに改めて気付かされる。
自己というものが、いかに他者との関係性によって形成されているか、その関係性が途絶えたときに、いかに空白が生まれるかを示唆され、物語の深みへと引き込まれた。