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ユングが幼少期から「No.1」と「No.2」という二つの人格を自覚していたというエピソードだ。これは彼の内面世界への没入と、のちの分析心理学の原型を示している。ユングは夢や象徴、神話を通して人間の無意識を探求し続けたが、その原動力は彼自身の内的体験に根ざしていたことがよく分かる。
また、フロイトとの決別や、欧米中心主義への懐疑など、ユングが時代の主流に抗いながら独自の道を切り拓いていった姿勢には強い共感を覚えた。河合氏は、ユングの理論が単なる知識ではなく、「生き方」そのものであることを強調している。これは、現代において「自分とは何か」「どこへ向かうのか」と問い続ける私たちにとって、深い示唆を与えてくれる。
本書は、ユングの予知夢や神秘体験など、科学的には説明しきれない領域にも踏み込んでいるが、それを単なる逸話としてではなく、彼の思想の一部として描いている点が秀逸だ。ユングの好奇心と探究心は、精神病理の解明だけでなく、人間存在の根源にまで及んでいた。
河合隼雄の文体は平易でありながら、深い洞察に満ちている。ユングの思想に初めて触れる読者にも、心理学の奥深さと人間の複雑さを感じ取れる構成となっている。ユングの生涯を通して、自分自身の「おはなし」を紡ぎ直すヒントを得られる一冊だった。



















