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本作の魅力は、「路」=鉄道という物理的な道が、人々の人生や記憶、文化をつなぐ象徴として描かれている点にある。台湾人の整備士ウェイズー、日本人の老人・葉山勝一郎など、複数の視点が交差し、それぞれの“路”が少しずつ重なっていく構成は見事だ。
特に印象的だったのは、台湾の街並みや食文化、季節感が生き生きと描かれていること。読者はまるで現地を旅しているかのような感覚に包まれ、「懐かしさ」と「異文化への親しみ」が同時に湧き上がる。台湾に残る日本の面影や、戦後の歴史を背負った「湾生」の存在も、物語に深みを与えている。
春香とエリックの再会は、過去と現在、夢と現実をつなぐ象徴的な場面だ。一度きりの出会いが人生を動かす力を持つこと、そして人はその記憶を胸に生きていくというテーマが、静かに心に響く。
吉田修一の筆致は、淡々としていながらも情感に満ちている。*「国境を越える絆」「生きる感触を伝える物語の力」*と評されるのも納得の、読後に温かさと余韻が残る一冊だった。



















