『戦いと平和のうずまき』(中川素子/スタシス・エイドリゲーヴィチュス)は、戦争と人間の心を深く見つめた哲学的な絵本です。短い言葉の中に、暴力や憎しみ、そしてそれを越えようとする希望が静かに描かれています。スタシスの幻想的で重厚な絵が、言葉の余白を埋めるように訴えかけ、読む者の心に深い問いを残します。美しさと痛みが共存する、まさに「うずまき」のように思索を誘う一冊です。
「本文扉絵には、マッチ棒が円状につながっており、先には多くのマッチ棒が詰まった箱が描かれている。マッチ棒にはすでに火がついており、この火がマッチ箱にいたるとき世界は破壊の炎に覆われるにちがいない。しかしこの絵は同時に別のことを語っている。火は希望の灯だ。希望の灯はつぎつぎと人の心に火をつけ、希望の灯のリレーは最後には民衆に炎を燃え立たせるはずだ。この絵本のテキストと絵の作者は異なる。絵はテキストが『戦争反対』という平板なメッセージに収まらない、真実を見抜く目をもった動物や植物といった『他者』からの声であることを示し、テキストは絵の描きだす世界が紛れもなく現実であることを証言する。両者は互いの力を開き、二重にも三重にもうずまきの如く加勢仕合うことで、メディアとしての絵本の力を極限に向けて解放する」。本書について、こう語り「新たな絵本世界を開く試み」と評したのは矢野智司(やのさとじ)だ。彼は教育学者だが教育学の視点のみならず絵本に対する造詣が深い。
文章を紡いだ中川素子は語る。「北から飛んできた目の鋭い鳥が、緑の山野に休んでいる南の鳥を襲っている。この絵を見たときに、いま世界で起こっている出来事だと直感的に思った。絵の意味を聞いた訳ではないが、この1枚の絵が、絵本『戦いと平和のうずまき』を作ろうと思ったきっかけになったのである。絵本は、絵本作家が一人で、文と絵の両方を行う場合が多いが、物語があって、それに美術家が絵を描く場合や、絵が初めにあって、それに作家が物語や言葉をつける場合もある。本書は、後者の例だが、それだけではない。内容や制作年がバラバラなスタシス・エイドリゲーヴィチュスの作品群から私がテーマを企画し、一冊の本になるように作品を選定していったのである。スタシスは、そのように作品を自由に扱う私の意志を常に尊重してくれている」。ポーランドに住む美術家スタシス・エイドリゲーヴィチュスと中川素子の信頼関係の深さ、お互いを尊重する創作の魂が呼応して本作品は生まれた。
平和への願いは世界共通だが一筋縄ではない。この絵本は何度もぺージを繰るたびに発見があり想像を掻き立てられる。そんな小さな劇場を手に取って出会ってほしい。あなた自身の感性の世界に。
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