主人公の依子は、暴力を愛する異端の女性。その腕っぷしを買われ、暴力団の会長の娘・尚子の護衛を任される。最初は反発し合う二人だったが、尚子の抱える秘密を知った依子は、彼女を守ることを決意する。物語は、暴力に満ちた世界の中で、二人が互いに理解し、信頼を築いていく過程を描いている。
読んでいて印象的だったのは、依子の“暴力”が単なる破壊ではなく、彼女なりの“生きる術”であることだ。社会から逸脱した存在でありながら、彼女の行動には一貫した信念がある。尚子もまた、表面的には“お嬢様”だが、内面には深い傷と葛藤を抱えている。そんな二人が出会い、ぶつかり合いながらも、少しずつ心を通わせていく姿に、私は“人間らしさ”を感じた。
タイトルの「ババヤガ」はスラブ神話の魔女の名前だという。異形でありながら、導き手でもある存在。依子はまさに、尚子にとっての“ババヤガ”だったのかもしれない。暴力という迷宮の中で、尚子を導く存在として描かれている。
この作品は、ルッキズムや家父長制、異性愛中心の価値観など、現代社会の“当たり前”に対する批判も込められている。だからこそ、依子と尚子の関係は、既存の枠組みを超えた“絆”として、強く心に残った。
『ババヤガの夜』は、暴力と優しさ、異常と人間性、そのすべてが混ざり合った“曖昧な世界”を描いている。その曖昧さこそが、私たちの現実に近いのかもしれない。読後、私は「強さとは何か」「守るとはどういうことか」を、改めて考えさせられた。















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